私は彼に愛されているらしい2
「良かったら飴食べますか?」

「ん?あー…ちょうだい。」

「分かりました。」

口調も棘がなくなって有紗の表情も自然に緩んだ。そう、本来の東芝は少し脱力感のある毒舌王子なのだった。

そんなに高くない身長でも170はあるだろう、黒髪短髪に黒縁メガネは爽やか知的男子そのもの。切れ長の目に微かにしか表情を変えないクールさに女子たちは感嘆の溜息を漏らしていた。

「どうぞ。」

「カロリー高そう。こんなんばっかだと太るよ持田さん。」

ただし毒舌。

「嫌なら返してください。」

「疲れには糖分でしょ。誰かさんのおかげで2人分の疲労がきてる。」

「他にも種類ありますよ?」

小言が始まりそうな予感に有紗は自席のキャンディポットを手にして東芝に差し出した。東芝には以前渡したことのある飴を選んだのだが、実は苦手だったかもしれないと今更気付いて少し焦る。

「好きなの選んでください。」

「じゃあ、コレとコレとコレ。」

遠慮なしに数個手にする東芝を見つめて有紗は黙ったまま瞬きを重ねた。

「なに、取りすぎ?」

「いいえ?気持ちいいです。今度からもいっぱい用意しておきますね!」

「設計士辞めて飴屋になったら?」

「見捨てないで下さいよ!!」

聞き捨てならない言葉に有紗は焦って東芝に手を伸ばした。冗談とも本気とも取れない東芝の言葉は心臓に悪い時が多い。

しかし今回は冗談だったようで楽しそうに笑いながら飴を口の中に運んで手元の書類の片付けに戻ってしまった。ちょうどいいタイミングで君塚も自席に戻り帰り支度を始める。

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