私は彼に愛されているらしい2
おそらく有紗の予想通りに実家に住み着いていると勝手に勘違いしていたギンガム男は乾いた笑いを見せることしか反応が出来なかったようだ。

有紗の言葉が放たれる度に自分に対する周りの目が変わっていくのを感じていた。

それもそのはず、職種もそうだが有紗の卒業大学は全国的にも有名で、並んで座っている男性陣の誰よりも偏差値の高いところだからだ。

学歴がある、それを言うならばこの場にいる誰よりも有紗に当てはまる言葉だとこの瞬間に一同が理解する。

「就職活動は確かにキツかったよね。私も学歴があったけどうちの親会社には落ちた訳だしさ。女だからかな、やっぱり設計士って狭き門みたいで入社試験もそれなりに厳しかった覚えがあるよ。」

嫌味を含みつつ一応の自虐ネタを入れてみても意味がなかった位に周りはただ驚いていた。さっきまでは理由もなく軽視していた相手が実は自分より上だったと気付かされ言葉もないらしい。

「…すご、国立ってめっちゃ頭いい。」

何がおもしろいのかひきつった顔でそう呟いた女の子は笑うことしか出来なくなっていた。

今の自分がどう見られてどんな壁を作られているか十分に分かっている。

なんでそんな人が自分たちと同じこんな場所にいるのだろう、ぐらいか。

何も楽に入れた訳じゃない、有紗だって必死に勉強して懸命に目指した結果入れた大学だ。なのに頭がいいという一言で簡単に壁を作られて勝手に予防線を張られてしまう。

そういう人間は大抵力を抜いて進学や就職をしていた。

最初から自分を高い位置に持っていき、下は遠慮なくけなして上は別世界の人間だと切り捨てる。他人の苦労を認めようとしない人間が多いことを身をもって知っていた有紗はこの場の雰囲気に感づいていたのだ。

今日の周りの空気がそうだと。

だからこの時間が嫌だったんだ。

案の定、予感は的中して最悪なことに有紗は集中砲火を浴びてしまった。

千春は好きだが今回のメンバーは有紗にとって辛いものになってしまったこと、諦めと屈辱が織り交ざって複雑の感情のまま有紗は小さくため息を吐く。

帰ろう。

有紗は心の中で呟くと席を立った。

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