暗闇の鎌【読みきり短編集】
ヨウコ

なにもかもが憎い――。

 憂鬱な雨。

じとじととした熱気を持った空気。もわんとする車内。キュッキュとあちらこちらから聞こえる靴音。傘から滴がたれ、足元を濡らす――こんな状況はいつもと一緒。そう同じだったはずだ。


だが今日の私は違ったのだ。


頭の中が昨日の苛立ちを引きずっていた。


おかしい。いつもなら、ぎゅうぎゅう詰めを我慢して、吊り革をギュッと力を入れ立ち尽くし、時間の流れを待つ通勤列車だが、一番端に座れたはずなのに。それは滅多にないことなのに――おかしい。苛立ちは増すばかりだった。


そんな時、目の前に紺のスカートが現れた。ふと見上げると女子高校生二人が喧しい甲高い声をだし、はしゃぎながら何かを語っていた。


話の内容は興味がなかった。注目していたのは女子高校生の傘だった。


笑い声を発するたびに揺れる傘。


この傘が今にもスーツのズボンを汚しそうで、視線を振りほどけるはずもなかった。
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