紫陽花ロマンス
5. 雨宿り


こんな時に限って、雨も降らない。


昼休憩の時に見た空とは一変して曇り空。風も出てきて今にも降りそうなのに。


いっそ滝のような雨が、この醜い心と体を全部洗い流してくれればいい。


それぐらいで綺麗になんてならないだろうけど、今の気持ちを抱えたまま家に帰りたくない。


早退したものの足取りは重く、駅へと向かう私の脳裏には、さっきの情景がフラッシュバックして止まない。


浮かび上がってきた二人は、私を見て笑ってる。


本当はあの時、二人は私になんか気づいてもいなかったのに。


ふと振り向いた先、通り沿いの店先のガラスに映った自分の姿に愕然とした。


なんて醜い顔をしているんだろう。


こんな姿で、光彩に触れたくない。
こんな顔を見られたくない。


情けなくて、悲しくて、また涙が溢れてくる。


お願い、早く降ってよ。
バッグの中に折り畳み傘は入っていないのだから。


前方の横断歩道の信号が点滅し始める。もう走る力もなく立ち止まった私の傍をベビーカーを押した主婦が猛スピードで駆け抜けた。





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