はじまりは政略結婚
智紀の想いと二人の過去
テレビに休みはないのだから、そこで働く人たちも当然忙しい。

副社長である智紀が例外なわけがなく、同棲を始めておよそ一カ月。

まともに休みが合わなくて、ゆっくり話をする機会もなかった。

だけど7月最初の金曜日の夜、珍しく早く帰ってきた智紀が、お風呂上がりに声をかけてきたのだった。

「なあ、由香。明日は仕事が休みなんだ。二人でどこかへ行かないか?」

ベッドに座って寝ようとしていた時にそう言われ、思わず立ち上がる。

「えっ? ほ、本当に……?」

素直に『嬉しい』と言えない自分が情けないけど、口元が自然と緩んでしまいそうだ。

思えば、二人でゆっくり出かけたことなんて一度もないのだから、誘われただけでドキッとしてしまう。

「ああ。明日は天気がいいみたいだし、ドライブなんかどうだ? 普段うるさい場所にいるから、静かなところがいいんだけど」

私の側に歩み寄った智紀が、優しく手を取る。

休みの日に静かなところへ行きたいなんて、彼がそう思うことが意外だ。

てっきりクラブなんかの、華やかな場所が好きなんだと思っていたから。
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