だから、恋なんて。


うっすら膜がかかったようにぼんやりとした景色のナースステーション。

いつもはモニターの音も、医療機器の作動音もはっきり耳に聞こえてきて、うるさいくらいなのに。

なぜか聞こえるのはコツコツと近づく靴の音だけ。

デスクに両肘をついてボーっとしている私のすぐ横に、いつもは寡黙な医者が片腕をつく。

色白で血管の浮いたその腕は、意外と引き締まっていて、悪くない。

視線は感じるのに、何も話しかけてこないその人。

ゆっくりと視線を上げると、待っていたかのようにもう片方の手が頬に添えられる。

病院内でのありえない状況に、他のスタッフがいたらどうしようかと辺りを見ようとするけれど。


しっかりと捉えられた視線は、逸らすことを許さない。

ゆっくりと近づく視線は、この先に何が起こるか暗に知らせるように甘くて、妖艶だ。
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