春の桜は色鮮やかに=独眼竜の妻・愛姫=
一、愛姫

田村の一人娘

「姫様、お上手になられましたね」

「ありがとう。でも、たきにはかなわないよ」



ある晴れた春の日、陸奥国(むつのくに・今の福島県)三春城の一室で一人の少女が筝を弾いていた。


彼女の名は、愛姫。

城の主、田村清顕(たむら・きよあき)の一人娘だ。



シャン、サーラリンと呟きながら弦を爪弾く姿は、何とも可愛らしい。

そばに付いていた侍女・たきも思わず笑みをこぼした。



「こんなに可愛らしい姫様なら、もらい手もすぐに見つかるでしょうねえ」

「たき、いきなりどうしたの」

「いいえ、本当に姫様は愛らしゅうございますよ」

「へんなたき」

「うふふ」



暖かな日差しが降り注ぐ部屋の中に、笑い声が響く。



愛姫に結婚話が持ちかけられたのは、その四日後のことであった。
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