山神様にお願い


「あらあら・・・」


 私は出来るだけ静かに荷物を整理する。

 そしてそそくさと図書館を後にした。

 よく行っていた校舎のベランダ、いつもここでお昼を食べていたところへ早足で駆け込んだ。

 ここなら一人になれると知っていた。

 見上げると冬の空。

 青い色はなくて、重い水分を含んだ灰色の雲が広がっている。私の吐く息は白く白く、その冷たい空気の中を上がっていく。

 指先は冷たかった。

 襟元から入ってくる風も冷たかった。

 今にも雪が降りそうだった。

 だけど、顔だけが熱かった。

 両手の指先を頬に当てて、その熱を分け与える。ああ、こんなに熱くなっちゃって、私ったら・・・。

「もう、もう~・・・」

 呟きもすぐに消えていく。

 風に飛ばされるこの温度、だけど、彼のことを思い浮かべればまたすぐに沸いてくるこの熱さは。

 ああ、私、判ってしまった。

 判った、よ、店長。これだね、これが――――――――――――人を、凄く好きになるってこと。


 夕波店長、やっぱり、私は。

 すごく、あなたが好きなようです・・・。


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