山神様にお願い


 今日は山神もないし、晩ご飯はどうしようかな、そんなことを考えていたら。

 急に腕を引っ張られて、私の体が宙に浮いた。

「ひゃああっ!?」

 咄嗟に出た悲鳴は大きな手で塞がれる。

 校門までが目の前で、ちょっとした大きな茂みの側に引っ張り込まれたのが判った。

 体は抱きかかえられ、口元には大きな手が。ヤダヤダ!何、何よこれ!これって、まさか・・・まさか――――――――――


「・・・ほら、暴れちゃダメでしょ」


「!?」

 変質者に人から見えない場所に引きずりこまれたのだとほぼ断定して恐怖に怯えていた私の耳には、聞き覚えのある低い声。

 後ろから抱きかかえられて口元を押さえられていたけど、私は渾身の力を込めて無理やり斜め後ろを振り返った。

 耳元、すぐ近くにある口元はきゅっと上に上がって三日月型を作っている。

「あ・・・」

 口元から押さえられていた手が離れて、私は声を零す。

 この香りは。

 この温度は。

 この声、この口元は――――――――――


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