山神様にお願い


 結構な間をあけて彼が言う。その声には楽しそうな響きが含まれていた。

 その狐目を細めて、彼が笑っている。

 私はそれを見ていて、店長の体から緊張が溶けたのが判った。

「俺が興味あるのは」

 ぎしっと音を立てて店長は立ち上がる。そして一歩で私の前の前に来て、ぐいーっと私を引っ張りあげた。

「今と、これからからのシカだ」

 抱きしめられて体が熱くなる。そろそろと私も彼の背中に手を回して抱きしめた。

 ・・・・あったかい。この人は、温かい。いじめっ子で無茶苦茶なところもあるけれど、だけど私は、この人が好きなんだ。

 それが判っていればそれでいい。

 少なくとも今は、それだけでいいんだ。

 ぎゅう~っと抱きしめる。腕の中で、微笑んでいた。

 その時、私の耳元で、店長がぼそっと低い声で呟く。そしてその呟きは、私の心臓を一気に打ちぬいた。

「――――――――で、シカは卒業後、誰と結婚するんだ?」




 うぎゃあ。




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