トラさんがチッと舌打をした。

「くそ、ツルめ」

 シカさんは可哀想に、まだ何がどうなっているのかが判っていないようだった。だけど俺とトラさんが喋っている間に覚醒したらしい。更に真っ赤っ赤になって、俺が突っ込んだ雑誌をぎゅう~っと抱きしめている。

 ああ、可哀想に。怖かったんじゃないのかな、これ?

 トラさんはそれを見ても食欲がそそられるようだった。舌なめずりしそうな表情でシカさんを眺めている。美味しそうだ、と呟いて。何この上司、めちゃ危険じゃないか、これ。

 俺は笑いながら、それでも呆れて天を仰ぐ。

 ちょっと山神様~、おたくの信者、問題ありですよ~。責任とってどうにか鎮めてくださ~い。

 結局シカさんは逃げてしまった。もうそれは凄い勢いで。多分ツルさんが慰めるだろう、そう思ったから俺は後に残されたトラさんに、くどくどと説教をする。

「辞められたらどうするんですか~。迫るのもタイミングを見てくださいよ。そんな、皆で来てる海でいきなり押し倒したらダメですよ~」

「押し倒してねーぞ。シカが横になったんだよ。だから、おお!これは頂いてもいいんだな~って・・・」

「そんなわけないでしょ。婦女暴行未遂ですよ、マジで」

「合意の上だっつの」

「シカさん合意してなかったじゃないですか!」

 どんな都合のいい目なんだ!

 その後もネチネチと説得していたら、うっとうしくなったらしいトラさんが大げさなため息をついて同意してくれた。