山神様にお願い
校門を出るところで、足を止めた。
大学の門前には、阪上君。うちの大学のロゴが入ったブルーの紙袋を手から提げている。
「・・・まだ帰ってなかったの」
私が言うと、うん、センセーを待ってたんだよ、と言った。
私は前を向いて歩く。別に泣いたりはしなかったから、汗でファンデは剥げていたけど目元の化粧はそのままで残っていた。
私の顔をじっとみていた彼が、ため息をついた。
「僕、謝らないからね」
「・・・謝るべきよ。初対面の人に、あんな失礼な口聞いて」
「・・・だってもう会わないし。それに、間違ったこと言ってないよ」
駅までの道を歩く。私が黙っているのを見て、阪上君も黙っていた。
街路樹の緑が水を欲して変色している。その下を、汗をたらしながら私達は歩く。
セミの声がうるさい。光は眩しくて、オープンセミナーの手伝いで足はパンパンだった。それに、今日はよく走った日なのだ。
だるい体をひきずって歩く。ちょっとの間、阪上君の存在を忘れていた。私は夏の太陽が作る、白くて強烈な光と影のコントラストに見惚れていたのだ。
その白と黒に。
ぼそっと、声が聞こえた。
「センセー、あいつはセンセーに似合わないよ」
「・・・」
「僕にしときなよ」
「・・・」