暴露 (秘密を知ってしまった・・・)

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 みんな自信に満ちあふれているように見えてしまう。
 (あのおじさんは、仕事ができそうだな)
 (私より少し年上らしいあの男性は、何も不安はないのだろうか)
 (みんな早足だな・・・)
 桜の花が道に舞うようになった4月。草野加世は通勤でごったがえす駅のホームで電車を待っていた。
 加世は、この4月から就職していた。高校を卒業して進学を選ばなかった。同級生は進学を選択する人も多く、家族もそれを望んでいたのだが、親からの独立を早くかなえたかった。お金を貯めて早く一人暮らしをしたかった。
 それにしてもラッシュがすごい。東京23区から離れた郊外への通勤でさえこの混み具合である。都心に向けての通勤なんて考えられない。
 初出社のこの日、気が強く、男勝りとも言われていた加世でさえ、気後れや不安で周囲に圧倒されていた。周りにいる人たちが、自信に満ちあふれ勝ち誇ってさえいるように見えてしまう。
 (観察されているのではないかな~)
 (何か目立つような変なことしていないだろうか)
 新しい世界への不安と焦燥が、見慣れた光景でさえいつもと違ってみえる。
 電車がきた。満員だ。
 前の電車は、満員で乗り込むことができなかった。いや、乗り込もうとしなかった。
 意を決して電車に乗り込んだ。
 臆する気持ちを強引に引っ込めて、電車に少し空いたスペースを見つけて体を押し込む。
 (負けるもんか!!)
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