暴露 (秘密を知ってしまった・・・)

13

 敵の出方が分からないまま数日が過ぎた昼休みのことだった。
 その日はいつも持ってくるお弁当を朝から作ることができず、外食をしなければならなかった。昼食時間帯で外食となると、近くの食堂やレストランの類は席取りゲームだった。行列も珍しくない。コンビニでさえ、レジには長蛇の列ができる。仲間がいれば、列に並んでも退屈しのぎに会話でもすればいいから多少、苦にはならないのだろうが、いつも外食しないからそんな仲間もいない。そもそも会社に心を許せるような先輩もいないのだが・・・。
 コンビニで買い物しようと考えてエレベーターを降りたときだった。違うエレベーターから降りてきた坂本さんとばったりと会ってしまった。
 「よう」とキリッと声をかけてくれた。
 「今からご飯食べに行くの?」
 「コンビニで買おうと思いまして・・・」(タジタジッ)
 「それなら、一緒に食べようよ。いいところに案内するよ」とこちらの返事も聞かないで先に歩いていく。気まずく時間を過ごすことになりそうで、気乗りがしないのに・・・。
 「ちょっと歩くけどね」と振り返ってきた。
 「あ、はい。何でもいいです」(タジタジッ)
 その返事を聞いて坂本さんは満足したようで、人並みをかき分けどんどんと進んでいく。ついていくのがやっとだ。
 「ここだよ」と案内してくれたのが、大通りから入った路地に建つ雑居ビル。
 「僕が見つけた穴場だよ。その店は地下にあるんだ」と、勝手知ったようにビルのなかに入っていきエレベーターに乗り込んだ。地下には、確かにこじんまりとした喫茶店があって、見つかりにくいところにある穴場かもしれない。しかし、お店の営業的にはどうなのだろうか?
 穴場とはいっても喫茶店には混む時間帯のようで、席が1席しか開いていなかった。お店のおすすめランチを二人して頼んだ。コーヒーも付いてくるというから、食べてハイ終わりというわけにはいかないようだ。
 坂本さんは、私を気遣っていろんな話題で場をなごむようにしてくれた。私が興味を持ちそうな話題を振り向け、興味があまりなさそうだと思うと違う話題に切り替えたりと巧みに会話をリードする。会話の中で相手を探って相手の口をなめらかにするのだ。いつしか、私も坂本さんのペースに乗せられて、高校時代の恥ずかしいエピソードを披露する羽目になっていた・・・。
 しかし、こんなに楽しい会話をするのは久しぶりだ。もうタジタジと受け答えをしていない自分にきづいていた。いつかエレベーターの前でぎこちなく会話したことまでもが、笑い話にすり返られて話の華となっていた。
 加世はつい、言ってしまった。
 「私は誤解していました。坂本さんは素性が分からなくて私にとって恐い人でした。でも今日、話してみて勘違いしていたようです。坂本さんはとても楽しい人ですね」
 「ハハ、それも誤解なのかもしれないよ」と坂本さんは含み笑いした。
 二人で笑い合ったのが、楽しかった食事の終了の合図となった。

 事件は会社のビルに戻ったときにおきた。エレベーターの前は、食事の時間がもうすぐ終わるという時間なので人だかりができていた。そこに私と坂本さんが一緒に連れ立ってきたのだ。
 運悪く当社の女性社員の一団がエレベーターの前に陣取っていた。松村さんもいる!!
 新入社員が社内でも人気の坂本さんと一緒だ。やばい・・・。しかし、もう取りつくろう暇などなかった。
 熱いレーザービームが私に容しゃなく突き刺してきた。それも複数のビームが同時に。
 そのビームが攻撃波で実際に人を突き刺すものであったなら、私は間違いなく真っ二つになっていたところだった。

 
 
 
 
 
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