暴露 (秘密を知ってしまった・・・)

8

松村さんを待っている間、生きた心地がしない。視線はさまよい続け、何をすべきかもわからない。事態収拾のために何かをしないといけないのだろうが、自分では何もできない。すべて松村さんや田中課長だのみだ。こんな不始末をしてしまって、どうしたらいいのだろう?
 自分が情けないという気持ちもわいてくるが、それよりも恐怖心が勝っている。この後に何が待っているのだろうか?事態収拾の方法も分からず、その後の結果も予想できないのだから恐怖心が増してくる。立つと足が絶対にふるえるはずだ。
 それでも、久保主任がチラチラと私をうかがい見ているのが分かった。青木さんは下を向いたまま顔を上げようとしない。上司なんだから、何か声をかけてくれてもよさそうなものなのに。放置されるよりも怒られていたほうが気楽だ。
 田中課長が走りこんで帰ってきた。自分の席につくと、すぐに電話をかける。
 「申し訳ありません」と、相手に謝っているのが聞こえてくる。
 「予約はとれたのですか?・・・そうですか。・・・・・いつも空いていますからね」と言うと、相手から怒鳴られたようで受話器を耳から遠ざけている。
 「本当に申し訳ありませんでした。今回は私がまったく失念して、予約を忘れていました。懇親会の手配などは、責任もってやりますので・・・・」
 (えっ!!私の名前が出ない) 
 受話器が置かれたのを見て、田中課長の席まで謝りに行く。
 席まで歩く距離がほんのわずかにもかかわらず、とても遠くに思える。
 周りから注目されている視線を感じる。本当に注目されているのだろう。いつもと違って話し声がしない。みんな不自然に顔を伏せている。この先の展開を期待しているはずだ。
 怒鳴られるのを覚悟して青い顔して謝罪した。
 「ミス①」
 課長が言葉を発したのはその一言だけだった。怒鳴られるのを覚悟していたから拍子抜けした。言葉を待っていてもそれ以上言ってこないので、
 「えっ」と反応すると、
 「新入社員にはね、ミス③までは許すことにしているんだ。あまり困らせないでくれよ」
 「うわ~~~ん」泣いてしまった。
 しかも、声に出して。
 それでも、松村さんが微笑んでいるのが見えた。
 こんな私にいいところなんて、あるのだろうか?
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