魅惑のハニーリップ
美しい唇
 病院での診察が終わったと会社に電話を入れたら、今日はこのまま帰ってもいいと言われたみたいだけれど、宇田さんは一旦会社に戻った。
 みんなに心配をかけただろうからと。
 その辺りの責任感の強いところが宇田さんらしくて素敵だ。

 私はどこか外で待ってようかと思ったのだが、宇田さんが一緒に来たらいいよって言ってくれたから、そのまま会社までついて来てしまった。

 私も同じ会社の社員で部外者ではないから、不自然ではないけれど、さすがに繋いでいた手は放した。

 エレベーターで営業部のフロアまで上がると、通路で佐那子さんとバッタリ出くわした。

「聖二! 大丈夫なの?!」

 佐那子さんが宇田さんの姿を発見して、すぐに駆け寄ってくる。

「今、優子ちゃんから聖二が事故にあったって聞いたの!」

「ああ、悪い。後で佐那子にも連絡しようと思ってたんだ。このとおり大丈夫だから」

 軽く両手を広げて、宇田さんは佐那子さんに無事な素振りを見せる。

「心配するでしょ! 救急車で運ばれたなんて聞いたら!」

「頭を少し打ったって言ったら、念のためって救急車呼ばれちゃったんだよ。それにしても、めちゃくちゃ大袈裟なことになってるんだな?」

 心配そうな佐那子さんをよそに、宇田さんはヘラヘラと苦笑いを浮かべている。
 それを見て、佐那子さんも気の抜けた表情に変わった。

「もう、ビックリさせないでよね!」

 そんな風に言って小さく溜め息を吐いたとき、佐那子さんは少し離れた位置にいた私のことに気がついた。

< 62 / 166 >

この作品をシェア

pagetop