どこからどこまで

(かわんないな)


 願っても無いことだったと正直に言ったなら、俺は嫌われるだろうか。

 母からの突拍子もない提案に、驚く反面喜んでもいた。沙苗のそばにいられる。柄にもなく内心、浮かれていた。

 いくつになっても仲のよい母と叔母は、どうやら俺の沙苗への気持ちに気づいているらしい。それでもなお、沙苗に俺の隣室で一人暮らしをさせようと企んだのだ。変なプレッシャーをかけられてしまったようで、手放しでは喜べない気がしたのも事実だ。

 沙苗は、大学へは自宅から通う気満々でいたらしい。いくつになってもなかよし姉妹の急な提案に応じたのは、"お母さんも言ってたんだけど、翔ちゃんがお隣さんなら心づよいかなって思って"だそうだ。4月、はにかみながら、そう言っていた。


"急でビックリしたけど、翔ちゃんがいいって言ったら一人暮らししてもいいかな、って思ったんだよね"


 母の急な提案への反応は、俺も沙苗と似たようなもんだった。


"さながいいって言うなら、俺は全然かまわないけど"


 そもそも部屋が隣というだけで、一緒に住めるわけではないのだ。

 まさか今のような状況ができあがってしまうだなんて、数ヶ月前まで思ってもいなかった。

 とは言っても、お互いの足りない部分を補い合おうとした結果、そうなってしまっただけなのだが。
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