カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「“KANAME(かなめ)”。今結構女子に人気なんでしょ?」
「“KANAME”……」


確かに聞いたことはある。

良く目にするのが生活雑貨やインテリア。スプーンやフォークなどの食器から、照明のペンダントまで。
シンプルだけど、ちょっと色や形にアクセントをつける“KANAME”のデザインは、確かに女性向けだ。

どんな人がデザインしてるとかまでは知らないけど。


「“KANAME”のデザイナーが、うちの商品を?」
「の、予定。あ、これまだ一応秘密な」
「……神宮司さんて話は上手だけど、ちょっと口が軽いですよね」
「まーまー。それより、相変わらず厳しいんだって? 特に新人に」
「別に普通ですよ。新人だからってそうしてるわけじゃないですし」


厳しい厳しいってみんな言うけど、業務の指示や、ミスしたときの叱咤は当然のことだと思うけど。理不尽に怒ったりなんてしたことないし。

それに、ちゃんとミスのあとだってフォローしてるし。
大体、私も同じようにそうやってきたんだから、出来ないことじゃないのよ。

やる気があるかないか。

ただそれだけ。


後ろめたいことなんかなにもない私は神宮司さんをまっすぐと見る。
こっちは真面目に考えて答えたのに、数秒無言で私と目を合わすと、「ぷっ」と堪え切れないようにして彼は吹き出した。

目を丸くした私を、煙草で指して言う。


「今、大体なに考えてたか、想像できて笑っちまった! 確かにお前も頑張ってきたもんな?」


明るく笑いながら、自然に私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
なんとなく、父親に褒められてる子供の気分になってしまって、31歳にもなるのに、と、なんだか恥ずかしい。

けど、やっぱり褒められるのは嬉しいことで、しかもそれが当時の指導係なのだからその喜びはさらに大きい。

神宮司さんが大きな熱い手を離すと、不覚にも、恋愛に遠ざかっていた私の心はほんの少し音をあげた。



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