カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

 side 本庄要



『宣戦布告――ってやつさ』


モスグレイのネクタイをした神宮司さんは、何事もなかったかのような笑顔でオレの案内を続けた。

彼の大きな背中について歩くと、あのことが思い出された。
あの店から出て行ったときの二人の背中を。


カンファレンスルームに辿り着いたオレは、すでに待機していた他の社員と挨拶を交わして席に着く。

打ち合わせが始まって、デスクにノートとペンを広げたけれど、集中出来ない。

神宮司さんの言葉が頭をまわっている。
表向きは、ポーカーフェイスを作ってやり過ごしたつもり。だけど本心では――。


「……本庄さん」
「え、あ、はい。すみません、なんですか?」
「この間いただいたデザイン。いいんですけど、こう……あとひとつオリジナリティあるように……なんか、“うまいこと”できませんかね?」


フリ―になっても、こんなことしょっちゅうだ。
それでも、今の環境は、先輩とか上司とかに押しつぶされることはない。クライアントと上手くやれればそれで成立する。

もっともな指摘をされることももちろんあったけど、理不尽なことの方が多かった。


『うまいこと、やって』
『なんか、いい感じに』
『そちらに一任しますんで』


こんなことをいうクライアントは少なくなくて。
なんの情報も、理想も与えられないまま生み出すというのは、ゴールも見えない真っ暗な世界に一人立っているような感覚。

手を差し伸べてくれると思ってた人たちも、そんな余裕はなかったのか欲しい言葉は貰えない。


『“らしさ”ってやつが余計なんだよなぁ』
『このオーラ、消せる?』
『クライアントの言うことだけ聞けばいいから』


そんな過去を思い出して、まるで今、あの頃に戻ったような感覚に陥る。


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