カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
オレンジブラウン


エレベーターの扉が開くと、視線を落したまま降りた。
今しがた起きたことを思い返しながらずんずんと廊下を歩く。


『なんでここにいるわけ?! ――――梨木!』


あのあと外に連れ出した相手――小学校の同級生、梨木。

当時、特段親しくもなく、ましてついこの間、ものすごい険悪な別れ方をした。
それなのに、なぜ、梨木が、こんなところに!


私の問いに、梨木は言いづらそうに頭を掻きながらぼそっと答えた。


『いや……。あのあと酒井たちにすげー怒られて……』
『それでわざわざ来たっていうの? 名刺の記憶を頼りに? 言っておくけど、自分の意思できたわけじゃないなら意味ないわよ』
『や、うん。ちゃんとおれの意思で』


昔から底抜けに明るく、活発な男子だった梨木は、今でもその雰囲気は持ったまま。
けど、さっきは少し大人しく、控えめだった。


『悪気があったわけじゃないんだ。ただ、本当にびっくりした……ってだけでさ。だけどおれの表現とか、その……よくなかったから。――ごめん』
『――結婚、してるのね』


私は梨木の左手を見て、言った。


『あー……はは。でもさ、よく今回みたいなことで怒られてるよ、奥さんに。「もっと人の気持ち考えろ」って』
『……そう。ちゃんと言ってくれるひとでよかったわね。じゃあ』
『ああ、それじゃ……あ、そうだ。同窓会、もし当日でも予定が空けば参加して欲しい』


背を向けたときに言われて、私は足を止めた。


『――って、酒井たちが。……あと、おれも』
『……考えておくわ』


照れ隠しで、少しぶっきらぼうに答えた私は梨木の顔を真っ直ぐと見ることが出来なかった。
そんな様子に気付いたのか、「ははっ」と梨木が笑って言った。


『よかった! 今日はすぐに阿部を捕まえられて!』


『今日は』……?
その言葉に振り返ると、梨木は驚いた顔で私を見た。


『何回か来てるってこと?』
『あ、そうそう。言ってなかった? 新入社員かな? 可愛い感じの女の子にちょっと話しちゃったんだけど』



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