カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
ブロンド

side阿部美雪



携帯を見るけど、なにも変わらない画面が映し出されるだけ。

時刻は21時半過ぎ。
すぐに要に電話をしてみたけれど、いつかのときと同じ状況なのか、携帯に繋がらなかった。

勢いで要の自宅とアトリエにも足を運ぶものの、そこには真っ暗な窓が私を見下ろしてるだけだった。


電話が繋がらなくても、あの場所へ行けば必ず会えると思っていたから。
だから、少しだけ途方にくれる。
でも、今のこの気持ちをこのまま家に持ち帰るほど、大人しくしてもいられない。


「ほんと……どこまでも掻き乱されるわ……」


歳下の男に本気になって、足も心もボロボロにさせられるなんて。
こんな自分を、少し前までの自分が想像なんて出来るはずないでしょうけど。


「……阿部さん?」


すり減ったパンプスの先を見て歩く私に、正面から声を掛ける人がいた。

バッと顔を上げると、癒しのオーラを出してニコッと笑う神野さんが立っていて、どこか心が安らいだ。


「ああ、お疲れさまです。今日は残業かしら?」
「ええ、棚卸の準備を……阿部さんは……?」


『なぜ、ここに?』

そんな無言の質問に、苦笑するようにして答える。


「……ちょっと用事があって」
「そうなんですか」


ほんの少し言葉に詰まった私に、神野さんは気付いたかもしれない。
でも、必要以上に詮索しない。深入りしない彼女は、追及することなく、笑顔で短くそう言った。


「じゃあ、また……」


私から切り出して、会釈をしながら神野さんと別れようとしたときに、「あ」と、彼女がなにかを思い出したように声を上げた。


< 173 / 206 >

この作品をシェア

pagetop