「阿部さんっ。昨日廊下ですれ違った人が、ここに入ってきましたよね?! あれ、誰ですか!」


ガチャッとドアを押しあけると、挨拶よりも先に森尾さんは私に詰め寄ってきた。


「昨日……? ああ、神宮司さんのこと」
「神宮司さんていうんですか! 下の名前は? 歳は?」
「神宮司匠。歳は確か34。ていうか、そこどいてくれる?」


人の行く道を阻む森尾さんを、横からかわしてデスクに向かう。
すると森尾さんはその場に立ったまま、ぽつりと漏らした。


「34かぁ……。ちょっと歳の差ありすぎ」


……あからさますぎ。一体会社になにしに来てるわけ?

結局、先輩(私)に挨拶もしてないし。ほんと、森尾さん(この子)になにか教えるのいやになる。

それでも、指導は業務の一環だから、私は彼女に仕事を教えなければならない。
私個人の感情を挟んじゃだめ。それが社会人のルール。

「ふー」っと息を少し長めに吐いて、気持ちを落ち着かせてから席に着く。
カバンからファイルや書類を取り出し、トンっとデスクに立てて揃えてから、パソコンの電源を入れた。


「阿部さん、昨日“KANAME”見ました? めちゃくちゃかっこよくないですか?!」


いつの間にか、また甘い香りをさせて私の横に来た森尾さんが興奮気味に言った。
そんな森尾さんを見もせずに、パソコンが立ち上がるまでの数秒でファイルの中身に目を通しながら、素っ気なく答える。