「あ。悪い。人がいるって気付かなかった」


一歩引いた森尾さんが、きらきらとした目を向けている先には神宮司さん。
まるで漫画のように両手を組み合わせて、上目遣いをする森尾さんに呆れる。


だって、今朝じゃなかった? 神宮司さんは歳が離れすぎてるから要の方がいいって言ってたの。


『イイ男なら結局誰でもいいのか』って、あと少しで口から出てしまいそうになる。

――そんなこと思ってる自分だって、少し前までは森尾さんと同じような感じだったっけ。
あんなに媚びたりはしてなかったとは思うけど、条件いい相手を心じゃなくて頭で選んでたんだから、森尾さんのことをとやかく言えない、か……。


過去の自分を思い返すと恥ずかしい。なんでも思い通りに人生が転がっていくって、根拠なく思ってた。
今、あの頃の自分に会えるものなら言ってやりたい。

『人生、あんたの思うようにはいかないわよ』って――。


「あ、あの、全然大丈夫で――」
「阿部! さっきはサンキューな!」


森尾さんの熱視線にも気づいているはずなのに、彼女の言葉もかわして神宮司さんは軽く手を上げて私のデスクに来た。
神宮司さんを見上げた奥に、森尾さんの嫉妬の眼差しを感じながら、至って冷静に答える。


「いえ。けど、もうこういうことは遠慮してもらえますか?」
「あ。怒ってんの? 美雪ちゃーん、怒らないで」
「……あたし、失礼しますっ!!」


森尾さんがそう言って、バンッと大きな音を立てて出て行ったドアを二人で見る。