カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「……神宮司さんのせいですよ」


森尾さんがふてくされたのは。
きっと、若くて可愛い自分に目もくれずに、年増できつい私の方に神宮司さんがきたものだから。


「俺?」
「名前くらい聞いてもらえると思ってたんじゃないかしら」
「んなこと言ったって。俺、ここに来たのはあの子の名前を聞くためじゃないし」


そう言って、神宮司さんは近くの椅子を引っ張ってきて私の隣に座った。
また明日、森尾さんの対応が面倒なのかと想像して、溜め息を漏らす。


「ああいう子の対処、私ニガテなんですから。あまりここに来ないでください」
「お前……先輩に“来るな”って、すげぇもの言いだな」
「神宮司さんだから、つい」


つらっと返して、カバンの中から資料や修理品を取り出した。
今日はほんとに予定より大幅に時間が押してるから、最低限の処理だけして帰ろう。

神宮司さんがいるにも関わらずに、気にせず自分の作業を進めようとしたときだった。


「じゃあ、ここじゃないとこで会ってくれるの?」


私を下からのぞきこむように、低い体勢で肘をついて言う。
至近距離にびっくりして、思わずのけ反るように避けてしまった。


一体なにを突然に……。だって、先輩後輩として過ごしていたときにそういう雰囲気はなかった。
大体彼女がいたのも知ってるし、なかには同じ社内の女だったこともあって、どういう相手だと長続きしていたかとかもなんとなくわかる。

その私のデータによれば、私みたいな女なんていなかったはず。

だとしたら、営業トークから培われた、ちょっとした冗談? からかって笑うつもり?
それとも、興味本位――お試しみたいなノリで、こんなこと言ってきてるの?



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