カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「なんのジョークですか? 神宮司さんの好みって、中身はともかく、さっきいた森尾彩名みたいな女の子らしい感じですよね」


冷静になって、置いた距離をまた詰めると資料をパラパラと捲った。その最後の数ページで、ひらりと小さな長方形の紙がデスクに滑っていく。

その行く先を目で追うと、神宮司さんの腕に挟まるように収まった。

むくりと起き上がり、私の視線を受けながら、神宮司さんはその紙を拾い上げる。


「俺の好みなんて、どうして阿部にわかるんだ?」
「……え? いえ、なんとなく前までの感じで……」
「『前までの感じ』、ね……まぁいいけど」


急に素っ気ない感じに言いながら、拾ったものを私にスッと差し出した。

さっきまでの雰囲気と違う神宮司さんに動揺しながら、なるべく平静を装って、その手にある名刺に指が触れそうになった瞬間――。


「“今”は、阿部がいいと思ってるんだけど」


パッと掴まれた右手に、一気に鼓動が速まる。
大きく分厚い手。指の節がごつごつと角張っている熱い手が、私の手首を掴んでいた。


今まで男性に対して、気に入った相手に自分から押していくばかりで、こんなに積極的に言い寄られることってなかったかもしれない。

だから、この場をどうやり過ごせばいいのか瞬時に思い浮かぶはずもなかった。


「あ――――……」


滑り落ちる名刺を追うことも出来ないまま。




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