カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
トパーズ


午前中から要に呼びだされたおかげで、時間はかなり押した。けど、仕事はスムーズに、いつもどおり終えることができた。

きっと、今朝の状態のまま営業に回っても、それこそ空回りばかりだったと思う。


……不本意だけど。ほんとーに不本意だけど! でも、感謝してる。
てっきり、鼻で笑われるかと思ってたし。だからこんな悩みなんて、理解できないと思ってた。

でも結局私が今日、あの場所になぜ呼ばれたのか、明確な答えはわからないまま。


あのアトリエの窓の青を思い出しながら歩く。ここから外出したときよりは、自分の足音が軽く聞こえる。
無意識に張っていた肩の力も、どうやら少し抜けたよう。そのせいか、急に肩懲りを感じた。

あと数メートルでいつもの部署。そう思うと、気が抜けてリラックスするように、軽く右肩を回しながら歩いた。

向かい側から社員らしき人が歩いてくる。
つきあたりの窓の逆光で顔は見えないけど、男女の二人だ。背丈や体のラインの影でそれくらいわかる。


この間のような、真っ赤な夕陽じゃなく、今日は黄金のような……トパーズ色。
ああ。今頃あの“キャンバス”には、こんなトパーズが一面に広がってるのかしら。


「えぇー? 元々営業部だったんですかぁ?」
「ああ。ついこの間までね」
「えー。ざんねーん……。仕事教えて貰いたかったですぅ」


オフィスの窓と、要のアトリエを重ねて見ていると、私の神経を逆なでするような猫撫で声が聞こえて足を止めた。





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