カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
＊

「……べ、さん……阿部さん！」
「えっ！」


ボールペンを箱ごと持ち、ボーッとしたまま品出しをしていた私は、呼ばれた声にハッとし、顔をその方向へと向けた。


「それ、品番違うものですけど……」


弍國堂の神野さんに指摘された私は、瞬時に手の中の赤いラインがある箱と、目の前の黒いペンを見比べた。

こんな失態をしたことと、それを見られていたことに、返す言葉がすぐに見つからない私に気を遣ったのか、神野さんがその間を埋めるようににこやかに言う。


「私はそういうこと、よくやりますけど。阿部さんは珍しいですね」
「……ちょっと、考え事をしていて」
「あ、オリジナルのアイデアですか？　私も最近考えてるんですけど、なかなか」


私の横で、在庫の引き出しからペンを取り出しながら無邪気に話を続ける神野さんを見て驚いていた。

驚いていた理由は神野さんでなく、自分に。


――だって、私、今なに考えてた？


神野さんのいう、オリジナル商品についてじゃない。
かといって、他の仕事についてでもない。

無意識に思考が捕らわれていたのは、神宮寺さんや森尾さんのこと。そして一番は、今夜の――――要のこと。


「神野さんは、迷ったりすること……ある？」
「え？」
「……いえ。なんでもないわ」



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