カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

正面にある什器を見据えたまま、柄にもない質問を呟くように口にしたけど、どうせ届いていないと思った言葉を、すぐ撤回するかのように話を終わらせた。

カランカラン、と、音を立てながらペンを補充していると、いつの間にか立ち上がっていた神野さんがぽつりと答える。


「……逆に、初めから迷わないことなんてあるんですか?」


これ。神野さんて、こういう人。

ふわふわとした雰囲気なのに、突然しっかりと、地に足をつけたように芯のある言葉(こえ)を発する。

彼女のその声は、白黒の私の中に、時折色を残していく。
その鮮やかな明色が、心地よく、そして羨ましいものを感じさせる。


「……そう、ね」
「あ……なんか、偉そうにすみませんでした……でも」


真っ直ぐと、私を見ていた神野さんは、バツが悪そうにそう言いかけて箱からアクアの色をしたシャープペンシルを取り出した。

それを数本を手に握ったまま、独り言のように言った。


「案外、迷ってることの答えって、ほとんど初めから心では決まってたりする気がします」


彼女のその言葉は、まるでその手中にあるアクアのように澄んでいて、やっぱり私の心の片隅に浸透させていった。




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