事件について知りたいのなら情報屋に聞け、というのが探偵物語のセオリーだ。この街にも情報屋はいる。松本は情報屋に会うためにとある場所を訪れた。

「いらっしゃい。おぅ、地獄から舞い戻ってきやがったか」

「うるせぇよ。てめぇも相変わらずだな」

薄汚れたガラスドアを開けるとレジの前にいたチョビ髭の男が松本の顔を見ながら言った。髭と同じようなチョビっとしかない眉が特徴的だ。松本はしかめっ面を返しながら、

「ベンさんいる?」

「いるよ。いつもの席」

チョビ髭の男に促されて奥のテーブルに目を向けると、懐かしいバーコード頭が見えた。

「お前はここで待ってろ」

振り返り声をかけた相手はイノリだった。あずかり屋に言われてはいたが、松本はてっきりあずかり屋が同行するとばかり思っていた。が、そうではなかった。なんとイノリがついてきたのだ。

イノリは今日も詰襟の学生服にミニスカート姿、紺色のハイソックスという格好だった。こんな子どもを朝っぱらから連れ回している自分が嘆かわしい。どうせ連れて歩くなら自分に相応しい色気のある女が良かった。そう、素肌の上に毛皮のコートを着るような肉食系だ。こんなところを知り合いにでも見つかってはあらぬ誤解を招く。現に、

「おいおい、どうした。こんな若い子連れて。しばらく会わないうちに趣旨変えか?」

「うるせぇ、黙ってろ」

松本は興味津々とイノリを眺める男に舌打ちする。イノリは焦点の合わない顔のまま、素知らぬ方向を向いている。かなり近くまで男が顔を寄せているのに眉をしかめる様子もない。文字通り、男など目に入っていない様子だ。

「一応言っておくけど、手ぇ出すなよ」

「わーかってるって」

全く信用ならない返事だ。これ以上信用ならない返事があるだろうか、いや、あるにはあるか。

「ったく、ガキの遠足かよ」

松本はボリボリと頭を掻きながら、奥のテーブルへと足を向けた。

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