高嶺がスズメを部屋に送っている間に、松本もどうにか自力で屋根から降りることが出来た。それにしても太ももの内側が小刻みに震えている。人混みで空かしっ屁をこらえようとする時の肩のようだ。若干内側が冷たく感じるのは、夜陰の風のせいだと願いたい。

それでも生来の負けず嫌い根性と見栄で体勢を立て直し、スズメの部屋の方へ歩き出した。その途中、向こうからやって来た高嶺と出会う。

「おや、探偵さん。ご無事でしたか」

「何だその心底残念そうな顔は」

高嶺は松本にあの顔で笑いながら、

「いやぁ、それほどでも」

「だから誉めてねぇっつーの!」

高嶺はそのまま歩を進めて、どこかへ向かおうとしている。松本は振り返り、高嶺に話しかけた。

「どこ行くんだよ?」

「はい。お茶を。スズメさんならお部屋にいらっしゃいますよ。ワタシがいないからって油断してその気を起こさないでくださいね。すぐ戻りますから」

「てめぇはっ!」

「ちょいと行って参ります」

松本の殺気をひらりと交わし、高嶺はまた扇子を取り出した。それを振りながら歩いて行く。その後ろ姿に松本は舌打ちを思いきりかました。

松本がスズメの部屋の前まで来ると箱枕が転がっていた。それを拾い、松本が部屋の障子を何も言わずにスッと引くと、中にいたスズメがビクッと体を震わせるのがわかった。大げさなほど、目に見えたその反応に松本は眉をしかめる。また舌打ちをしたくなった。


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