松本と目が合った瞬間、男は恍惚とした表情を浮かべてナイフを振り下ろした。松本は回転レシーブの要領でサッと右手に飛び、高嶺は松本とは反対方向に飛びす去った。まるで反発し合う磁石のような素早さだった。松本は立てた片膝の上に手を起き、男を見上げる。男はナイフを振り下ろしたままの格好で松本の方に顔を向けた。

「挨拶にしちゃ手荒いじゃねぇか」

落ち窪んだ目が松本に笑いかけてくる。元は草の色をしていたと思えるミリタリージャケットはおびただしい返り血を浴びていた。その手の内、サバイバルナイフの切っ先が松本に向かって閃いた。

松本は手の甲でそれを払い、立ち上がる勢いに任せて男の体を突き飛ばした。紙のように薄っぺらな手応えは、向こう側の壁に背中を打ちつけ崩れ落ちる。松本は首を鳴らしながら問う。

「てめぇ、誰だ?」

男は剥いたばかりの果実のようにギラギラとした目を松本に向けた。ニヤリと笑う口の端が耳の下まで広がる。

「薄気味悪ぃ野郎だな」

男が肩を揺らしながら立ち上がった。と同時に松本に向かって突進してきた。的確に喉元を突いてきたナイフを松本は体を捻り、かわす。そして目の前の腕を掴み、伸びている肘に拳をぶち当てた。ゴヅッと硬い物がぶつかり合う衝撃に顔が歪む。だが休んでいる暇はない。

男の手からナイフが落ちた。松本はもう一度、今度は膝で小枝でも叩き割るように掴んでいた男の肘を砕く。

「ぎゃあっ!」

本来曲がることのない方向に加わった力はいとも簡単に男の腕をへし折った。

「男の悲鳴は何度聞いても品がなくていけねぇ」

松本は男の前髪を掴んだ。そのまま顔面に肘をぶち込もうとした瞬間、男がズボンの中に隠していたもう一本のナイフを取り出した。

「どっから出してんだよ、この野郎っ!」

男の本能とも呼べる雄叫びを上げながら松本は男から離れた。





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