岸栄高校演劇部〆発端



中学3年生の秋、俺は姉ちゃんに連れられ、岸栄高校をまわる羽目となった。


勿論、嫌々連れて来られたこっちの身としては至極つまらなかったし、ダチもいないこの状況で誰と楽しめというのだ。


ご機嫌斜めな俺に、姉ちゃんは何を思ったのか体育館へと俺を連れていった。


どうせここにいても面白くない。体育館のすみでジッとしていよう。



そう、思った時だった。



パチンと消える照明、前へ前へと進む人混み、いつの間にか離れていた姉ちゃんの温かい手。


混乱している内にも、俺はステージ近く、つまり人混みの最前へと来ていたのだ。


一体なんなんだ、怪訝な顔をして辺りを睨むけれど、突然としてライトが当てられる。


俺の、すぐ目の前にある、ステージの、中央へと。



そこにいたのは『天使』だった。



白いライトに当てられて、徐々に後ろのカーテンが開いていって。


演目『天使は瞳を閉じて』


俺は確かに、この天使に救われた。

同時に、心を奪われた。



「すっげ……」



気づけば言葉を漏らしているほどに、俺は、魅入っていたんだ。


きらびやかで華やかな衣装、迫力ある演技、アッと驚くような仕掛け。


「すごい」って、それだけだけど。それだけの言葉が、たった一言が、俺の語彙力皆無な頭ンなかでグルグルしてた。

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