幻影都市の亡霊
第一章 器を背負いし者
 疾風が吹く。
 高層ビルと、木々と、金属と、土とが、無秩序に育つこの巨大都市で――。

 疾風が吹く。
 どこかで魔造生物と神造生物が交配し、卵に似た様々な色と大きさと形の車が決められた路を走り、どこかで何かが生まれ、何かが死ぬこの巨大都市で――。

 かすかに異臭を放つ、疾風が吹く。


 このサティフの大地に根付く人間達が、科学を愛し、自然を愛し、魔法を愛した。相容れぬ三者を混合させ、出来上がった無秩序に育つ町々――。

 煌々と輝く青白い太陽が微笑む。暖められた大気が空へ昇る。その大気に含まれる科学が生み出したゴミ――一緒に舞い上がる。疾風が、臭う。

 町の中央に位置する巨大な黒のドームから、少年が出てきた。たくさんの、様々な肌の色と髪の色の組み合わせを持つ人々の中で、ひときわ目立つ少年が。

 少年がドームを出て、卵形の車体の下に球を埋め込んだカプセル型の車が通る路を横切る。少年の髪が疾風になびく。少年は銀の箱に乗り込んだ。車達よりも随分大きな車体。
 路の上を、決められた場所を、決められた時間で、ぐるぐる回るバス。路に埋めこまれたチップの上を走る。

 少年は銀の箱、幾分装飾過多なそれに乗り込み、左、一番奥の座席に座る。人工素材が、少年の重さを感じて形を変える。

 少年は座席横の壁を見る。そこにある小さなモニターと、通貨を入れる細長い穴。少年は肩にかけた黒い鞄から銅貨を三枚取り出し、穴に入れた。そして、モニターに映し出された行き先を押す。

 その頃にはバスは走り出していた。乗客は、少ない。
< 1 / 168 >

この作品をシェア

pagetop