幻影都市の亡霊
第二章 孤王の憂鬱

 踊るように風が舞う。

 巨大な一つなぎの大陸のほとんどを森で囲まれた世界――ただ、全てが魔法というもので創られている世界で――。

 風が踊る。

 もともと肉体を持たぬ神造生物と、亡霊が戯れで作り出す魔造生物が広き森を駆け、魔法で構成された町で民は豊かに暮らすこの世界で――。

 とてつもなく大きな光が輝く。

 王という名の全て――。王こそがこの世界の全て――。王が世界そのものであるこの世界で。今日も亡霊王は君臨し、実体のない世界を支え続ける。

 それもまた実体のない、存在すらしないのかもしれない、風が踊る。

 幻界の王都、ヨーテルロアーフ。実体のない者達の住まう場所。王の住まう宮殿。全ての中央に位置する、幻界の王座。そこに、一人の男が座っていた。視覚には赤く映る絨毯の敷き詰められた、だだっ広い部屋の中心で、男が座っていた。周りには、誰もいない。

「……」

 綺麗な、男だと思った。
 少なくとも、視覚にはそう映る。

 向かって左から右に流れる長い銀の前髪の、一房だけが紫に染まっている。

 残りの髪は全て銀で、長い。一部を後ろで束ねて、後は垂らしている。切れ長の眼、瞳の色は紫だ。ほのかに赤みがかった唇は、形が整っていて、鼻筋も通っている。眉毛がややきつめではあるが、本当に整った顔の男であった。

 黒と銀と金が基調の服を着ていた。
 長い足を組んで、座っている。
 年のころは、三十前後だ。しかし、彼の実年齢は見た目とは違う。軽く五十年以上の時を生きている。
 人間として生まれ、十八の頃に亡霊王として導かれ、亡霊になった。亡霊になると、年をとるのが遅くなるらしい。身体のいろいろな異常が免除されるから、人間と比べて長生きするのだ。
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