幻影都市の亡霊
第三章 全ての思念の交錯
「ハルミナ、幸せか?」
「とっても幸せよ、ヨミ。貴方といられるだけで」

 黒い髪の男の問いに、白金の髪の美しい女は笑った。

「俺もだ」

 二人は、幸せだった。ヨミ=グランブールとハルミナ=サバラーデ、婚約したばかりの恋人同士だった。
 周りも羨むほどのカップルだった。もともとハルミナは、違う男性と結婚することになっていた。だが、それは親同士が無理矢理決めたもの。
 ハルミナはそのときすでにヨミと交際していた。ヨミは救い出したのだ。そして、親も認めざるを得なかった。二人の仲を。もともと、ヨミのことを反対していたわけではなかった。ただ、ヨミはハルミナよりも身分が高かったのだ。それを親の方が引け目に感じていたのだ。

 だが、ヨミも、ヨミの親もそんなことを気にしなかった。二人には、幸せな未来が待っているのだと、誰も信じて疑っていなかった。

 なのに――、

「なんですって……?」

 ヨミは、耳を疑った。泣き崩れるハルミナの両親に、ヨミはただ呆然と、その事実を受け入れることすらできなかった。とにかく、ハルミナと話をするしかなかった。

「ハルミナ……」
「ヨミ?」

 ベッドに腰掛けるハルミナが、ヨミの方を振り帰った。そして、優しい笑みで迎えてくれた。

「ハルミナ……本当なのか……?」

 ハルミナは、ただ優しく笑むだけで、何も言わない。ヨミは歩み寄ってその手を取る。

「答えてくれ……本当なのか……っ?」

 ハルミナは、静かに肯いた。ヨミは息を飲む。

「今ね、私何も見えないわ。光を失った。でも、これは始まりなんですって。お医者様は治す術はないと言っていたわ。このまま、どんどんと私の身体は機能を失っていくんですって……」
「ハルミナ……っ」

 ヨミはハルミナを抱きしめた。かすかに震えている。当たり前だ。ヨミだって震えていたのだから。
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