散華の麗人

暗闇

闇の中でカツカツと靴が木の板にあたる音がする。

気配が1つ増え、それに気付いた様子で音が止む。

2つの影が向き合った。

「御苦労様です。」
男性の声が言う。
それに応えるように、もう1つの小さな影が頷く。
「………しかし、危うく、奇術師に見つかるところだったようですね。」
その言葉に人影は申し訳なさそうに頭を下げた。
相手はクスクスと愉快そうに笑む。
「まぁ……多少狂えど、上手くいった。」
男性は一息吐く。
「本当に……狐はいくらでも利用できる優れものです。」
月明かりが、男性の口角が上がった口元を照らす。
「……」
そして、沈黙する少女を照らし出した。
幼い顔には小さな体躯にはそぐわない程に表情がない。
「勿論、貴方の方が優れものですがね。」
男性のその言葉に、少女は乏しい表情を明るくして、嬉しそうな態度を取った。
まるで、年相応の子供だ。
それを見て男性は薄く笑む。
「あのまま、復讐の為に国王を襲えばよかったのですが……狐がこちら側に付いただけでもよしとします。」
男性はそう言いながら、眼鏡を上げた。
「夜が明ける。」
そして、少女が呟くと男性は踵を返した。
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