恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



「行かなくてよかったよね?」


狭いベッドで、背中合わせで寝転んだまま、恵美が言った。
結局電話は適当にあしらって、恵美はうちに泊まって明日はここから出勤する予定だ。


端からそのつもりだったのか、お泊まりセットをばっちり持ってきている恵美が可愛い。



「いいよ、二人で話すの久しぶりだし。……三輪さん、ちゃんと明日仕事来るかなぁ」

「来づらいだろうけど、それは自分で乗り越えてもらわなきゃね。知ってるのは私達だけなんだし、甘すぎるくらいだと思うけど?」



それは、確かにそうなんだけど…もう一緒に飲めなくなるのかな。
寂しいけど、今まで通りには行かなくても仕方ない。


こみ上げる欠伸を噛み殺して、滲んだ涙を手のひらで拭った。


今日は随分と長く感じる夜だった。
この頃の疲労と、背中の温もりからすぐにうつらうつらとしてしまう。


ああ。話したいこといっぱいあるのに。



「瑛人くんと、いいの?このまま離れて」



重くなった瞼を少し持ち上げる。
んー…と、それしか答えられなかったのは、眠気のせい、だけでも、ない。



「一人で立てる人間なんて、そんなにいないと思うけど」


「本当に、ただ甘えてただけ?」



そこに、気持ちはあったのか?
あったよ、でも、それが何かわからないまま。


わからないまま。



ちゃんと恵美に答えられたか、わからない。


温かい暗闇に、意識が落ちていったから。
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