契約妻ですが、とろとろに愛されてます

焦り

病状はそのまま小康状態を保ち、季節は春になった。


春は入学式や入社式の季節。もちろん、真宮コーポレーションも新入社員が入り、琉聖さんもますます多忙な時期を迎えているはず。


私は横になったまま頭をめぐらして窓の外を見た。


風が強そうだけどいい天気……。外にもうどのくらい出ていないだろうか……。


時刻は一二時ちょっと前、もうすぐ昼食が運ばれてくる。


美味しくない病院食を口に運ぶたび、顔を顰めて飲み込む。食べなければ身体はすぐに不調を訴えるから仕方なく口に運ぶ。玲子先生はそんな私を見て、「薬や点滴も大事だけれど、しっかり食べないと体力がつかないわよ」と怒る。


玲子先生に怒られると、私は小学生の子供に戻った気分になってしまう。小学校の頃の担任の先生に似ている。あの先生は今もお元気だろうか。今の私の先生は玲子先生。私の病気を治そうと一生懸命に尽くしてくれている。優しく厳しい……大好きな先生。


トントン……。


ノックの音と共に誰かが入って来た。


看護師さんが食事を持って来たんだと、窓の外を見る視線を外さなかった。


「ゆず?」


名前を呼ばれて驚いて振り返ると眉根を寄せた琉聖さんが立っていた。


「琉聖さんっ!」


こんな時間に来てくれるのは珍しくて私は嬉しい驚きの声を上げた。


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