唇が、覚えてるから

諦めた夢


「昨日はね、小学校の運動会の時の話をしたの。懐かしかったわ。

タカシは足が速くてリレーの選手に選ばれたの。でも前の晩熱を出してしまって。無理はよくないから休ませようとしたのに、泣きながら行くって言い張ってね。そして見事に一等を取ったのよ」

「頑張り屋さんなんですね」

「ええ。とっても」


少しずつだけど。

中山さんは私に心を開いてくれるようになった。



きっかけは。

息子さんの話をしたとき。

中山さんが話し始めた会話に、飛び込んでみたら……。

パッと中山さんの表情が明るくなって、それからというもの息子さんの話をよくしてくれるようになったのだ。
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