YUKI˚*
キミと出会った季節










「あ……雪…」



そう小さく呟いた声は


すうっとその白に吸い込まれていった




手の平にちらちらと舞い落ちる

白い雪は





ゆっくりと溶けていく





空を見上げて


あたしの顔はほころんだ




冬は好き



「白川 ゆき (しらかわ ゆき)」という名前のせいか



小さい頃、雪が降ると大騒ぎして喜んでいた





きれいだな



溶けては、また


積もる雪





高校生になって始めての冬


ちょうど学校の帰りだった




そういえば




久しぶりだな、雪見るの




温暖化のせいか、思えば去年も一昨年も雪を見てなかった気がする




そう思うと



この貴重な雪をもう少し見ていたくなって



あたしは帰り道の公園に立ち寄った









「わぁーー……」




公園には、もう少し雪が積もっていて




辺り一面は真っ白の




白い世界






思わず息を飲みながら



あたしは近くのベンチに座ろうとした




だけど


ギュムッ





「…………ん……?」



あたし、今なにか踏まなかった?




白い地面を見ると、そこだけなぜか膨らんでいて




あれ




今動いた……





「きゃーーーー!!!」


「…うるせーな」




え?!






人の声がしたと思ったら




雪の中から出てきたのは




金髪の男の人





「ちっ…ちょっと寝てる間に雪降ってっし」





いやいやいや


おかしいでしょ



普通公園で寝ないし



雪が降ったら気づくでしょ



てゆーか……






頬にできたばかりみたいな痛々しい傷



雪が降るくらい寒いのに薄着で




雪はおかまいなしに彼の肩に積もっていく




ダメだ……


見てらんない




気づいたら



あたしは着ていたコートを彼の肩にかけていた


当然、彼は「は?!」とでもいうような顔で



それでもあたしはおかまいなしに


「その傷どうしたの?」



彼の顔を指差した



その傷は、まだ新しく


触ったら痛そうで




彼はしばらく意味が分からないというような顔をしていたけど



突然、ふっ、と




「ケンカ」



笑った



「…………」



やっぱりそーゆー人なんだ


暴力とか


人をすぐ傷つけられる人なんて嫌い


そんなの許せない



あたし、この人苦手だ





でも



放っておけなくて





近くでよく見ると、本当に綺麗な顔


こんな傷があるなんてもったいない




あたしは鞄から絆創膏を取り出し


彼の顔に貼ろうと手を伸ばした



だけど




「…っ何すんだ」



響く低い声と




その手は強い力で払われた


痛かった



払われた手もだけど



心が





彼は鋭い目であたしを睨みつける


この目



なんだろう


彼は慣れている



こういう目をすることに、慣れている




あたしも対抗して彼を睨みつけるけど


きっとその精一杯の威嚇も、彼に比べたら全然たいしたことない


かわいいものなんだろう



どうしたら



そんな瞳ができるの?




そんな



心から人を嫌っているような



冷たい瞳




今すぐにでも逸らしたくて


だけど



逸らすわけにはいかなかった





そんなあたしのちっぽけなプライドで、しばらくその睨み合いが続いたけど





あまりに綺麗で冷たいその瞳に



やっぱり


耐えられず逸らしてしまったのはあたしだった





何なの……この人……




でも、あたしの悪いクセ



人のことになると周りが見えなくなる




「いいからじっとするっ!!!」


「はぁあ…!?」


すきあり!



彼が唖然としている間に、あたしは素早く絆創膏を貼った



「……ぃって!」



「はい!もういいよ!」



「…………」




彼が何も言わなくなって



あたしは、はっとする



彼はじっとあたしの顔を見ている


でも、もうさっきみたいに怖くはなかった



よし


今のうちに逃げよう



いくら周りが見えなくなるからって、こんな人の世話を焼くなんて


あたしってどうかしてる



何されるかわからないのに…





とにかく、これ以上この人と関わっちゃいけない



そう思って




「じゃ、じゃあ お大事に!」



それだけ言うと、あたしはぱっと彼に背を向けた



「おい」




だけど彼が


そのままあたしを帰してくれるわけない



呼び止められて



でもここでおとなしく止まってしまったら



…ただですむわけない



彼は





そういう人だから




「……体は大切にしてね」


それだけ


決して、彼がケンカをしてたこと


あたしは許せないけど



彼にだって大切な



心配してくれる人がいるはず




だから



「大切なんだよ」





それだけを言って、あたしはその場を後にまた歩き出す


彼を残して



まだ、後ろで呼び止めるような声が聞こえた気がしたけど




気にせず、そのまま歩いた






あぁー…… また余計なことしちゃったな



でも、気づかないで見過ごすよりよっぽどいい



彼の瞳は冷たかったけど




寒いもん


雪が降ってるから





あたしは身震いをした


コートが無くなってやっぱり寒い



早く家に帰らないと



そう思って少し早足になる







それでもおかまいなしに雪は





あたし達に降っていた







それがーー…





キミと初めて出会ったあの





冬の季節でした。










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