砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
小さく「ハッ」と聞こえ、衣擦れの音がしてカリム・アリーは引き下がった。


「サクルさま……よろしいのですか? 公務だなんて。何か大事な用があったのでは?」


リーンが腕の中でこちらを見上げている。


「大事? これ以上に大事なことなどあろうはずがない」

「あ……んっ。サクルさま、でも、これは……あぁ」


きつい締め付けが一段落して、サクルもようやく余裕を取り戻した。


「妃を孕ますことは、王として最も重要な公務だ。それ以外のことは臣下に任せておけばよい」

「公務……だからですか? わたしをお抱きになるのは……王としての」


リーンの言葉に悲しみの気配が漂った。


「不満か?」

「いえ、ただ……早く身籠らなければ、あなたを何方かに取られてしまいそうで……」 


リーンはどうやらサクルの寵愛を失うことが不安らしい。
 

< 11 / 134 >

この作品をシェア

pagetop