砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
砂漠の民は生い茂る緑や豊富な水に憧れる。

サクルの場合はむしろ砂漠のほうに愛着を感じていたが。とくに半島から外に出たいとも思わず、東の大国まで侵攻しよう、などと考えたこともなかった。

だが、カリム・アリーは違う。

彼は大陸出身の母の血ゆえか、緑豊かな東の国まで兵を進めたいと常々言っていた。

サクルがバスィールの王女を追い返そうとしたとき、反対したのはそういった理由もある。

無闇に攻め込むつもりはないが、バスィールを押さえておけば、その機会が訪れないとも限らない、と。


大公の三人の息子で一番国民受けが良かったのが、今回、クアルンにやって来たスワイドだ。

長男の次期大公と言われているバラカート王子は、可もなく不可もなく、凡庸な人物と言われていた。

両親や大臣の言葉にうなずくだけで、意見のひとつも出さない。年齢はサクルと同じだが、剣も読み書きも苦手という。すべてにおいて消極的な人物で、健康だけがとりえと言われている。


次男のマジド王子は性格的には一番真面目で頭もよい。大公に相応しい人物だ、と大臣たちは口を揃えた。

だがバラカートとは逆で、彼は健康に問題があった。幼い頃から何度となく死にかけ、どうやら、後継者を残すことが不可能な体らしい。それでは大公にはなれない。

だが、大公妃はこのマジドを可愛がり、実家の後を継げるように推薦した。


そして三男のスワイド王子。上ふたりに比べると、周囲が彼に期待しても無理はない。

本人も、自分が大公の後継者に選ばれると信じていた節がある。しかし、大公は長男バラカートを後継者とし、スワイドには臣下となり将軍として剣を持って兄に仕えるよう命令した。


それが、レイラーが婚姻のためバスィールの宮殿を出た直後のこと。


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