「そんなことになったのだけれど……シャーヒーンは何か知ってる?」


浴槽の縁に腰掛け、水の中に足を浸してリーンは近くに控えたシャーヒーンに尋ねる。

今は美しい女性の姿でシャーヒーンは侍女の代わりをしていた。


そこは初めてサクルに抱かれた湯殿。周囲を取り巻く緑と、雄大な砂丘が同時に見ることができ、実に不思議な場所だ。

円形の浴槽はいつも程よい温度の水で満たされており、その仕組みはリーンにはわからない。

午前中に謁見を終えたものの、夕刻近くになってもサクルはカリム・アリーと執務室に籠もったきりだ。

いつまでのひとりでいると、意識を取り戻したレイラーが訪ねて来ないとも限らない。リーンはサクルが認めた者以外は足を踏み入ることができない、この場所に逃げて来たのだった。


シャーヒーンはゆったりとした笑みを浮かべ、小首を傾げる。

それは、事情を知ってはいるがリーンに伝えることはできない、といった表情に思えた。


「そう、シャーヒーンはサクルさまに信頼されているものね。わたしは……妻として、この身体を必要とされているだけだもの」


瞳に暗い影を浮かべ呟くリーンを、シャーヒーンは心配そうに見ている。


リーンがどれほど「愛しています」と告げても、サクルは愛の言葉を返してくれない。

彼自身は、リーンに「愛してる」や「好き」という言葉を何度も言わせようとする。真実なのだから、それを口にするのは嫌じゃない。言う度に、サクルは嬉しそうな顔をしているので、リーンも満足だ。

だが、サクルがリーンにくれた言葉は……。


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