いつかの夜と同じ、“砂漠の舟”――真っ白いラクダがふたりを待っていた。

足元のふらつく彼女を、サクルは抱きかかえて連れて行く。そこは正門側ではなく、裏門のすぐ外だった。

正門側だとどうしてもスワイドの姿が目に入ってしまう。声も聞こえるかもしれない。泣きながら命乞いするスワイドの声を聞いてしまえば、リーンの心が揺れることは間違いない。

スワイドは許されがたい罪を犯した。

そのことはリーンも納得しているし、サクルに恨みごとを言うつもりもない。だが、朽ち果てて行く血の繋がった兄を見てしまえば、とても平静でいられる自信がなかった。


サクルは彼女の気持ちを察し、手配してくれたのだと思う。

それなのに、リーンは嬉しさより切なさが先に立った。


「これより向かうオアシスは、限られた者しか知らぬ場所。護衛兵はついて来ぬし、私に従う部族の者も現れぬ。だが、案じる必要はない。食料も水も充分にある」


夜が明けるまでには、あるいは数時間で戻ってくるつもりはないのだと知り、リーンは尋ねた。


「そこに……長いこと滞在するのですか?」

「十日程度だ。そこには、侍女も小間使いも奴隷もおらぬ。邪魔者の最たるカリム・アリーが姿を見せることもない。正真正銘ふたりきり……誰の目も気にせず、楽しむことができるぞ」


サクルの言葉に見送りにきた若い侍女たちはそろって顔を赤くした。


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