砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)

(3)罠

いったい何ごとが起こっているのか。

姿も見えないのにどうして声だけが聞こえるのか。

混乱するリーンの頭の中に、スワイドの声は響いた。


『父上はクアルン王に私の保護を願い出ていた』

「そんな……スワイド殿下が罪を犯したことは聞いております。でも、大公陛下はお怒りなのでは? 王子の身分も剥奪し、国王陛下には殿下の確保に協力を仰いだ、と」

『違う!!』


スワイドの叫び声にキーンと頭が痛くなり、リーンは両耳を押さえた。


『王はすべてを承知で、私が砂漠の宮殿内で罪を犯すように仕向けた。私たちは王の策略に嵌まったのだ。シーリーン、おまえはレイラーの姿を見たか?』


リーンは小さく頭を振りながら「いえ」と答える。


『可哀相に、レイラーはすでに殺されているだろう。そして王は私に止めを刺すために宮殿に戻った。おまえをここに閉じ込めて』

「なぜです? なぜ、王がそのような真似をしなければならないのです!?」

『決まっている。王に恥を掻かせたレイラーと我が国への報復だ』


そのようなこと到底信じられるものではない。

だが、レイラーに会わせて欲しいと頼んだとき、すでにいないと断られた。

カリム・アリーとの結婚を命じたので、スワイドの従者たちと一緒にバスィール公国に赴いた、と言われたが……。


黙り込むリーンの耳にスワイドの声が響いた。


『リーン、我が妹、シーリーン王女よ、思い出せ。私の確保を言われていたなら、何ゆえ、王は帯剣を許可したのだ? 私を信頼して? 違うな。王は私が罪を犯すことを望んでいた。私を合法的に殺すために』


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