それが一摘みの恐怖であったとして
もしも
考えはない。
特になし。
悲惨な風景ばかり。
嘗ての面影もなくなり、高いばかりの高層ビルが立ち並び、人々は時間に追われ、いきる意味を考えている時間が惜しいと思い、世界の歯車の一つと言われているとはいえ自分一人がどうこうなったところで何もないことを分かっている。
夢もへったくれもない世界。
そこに生まれ落ちた、否、精子と卵子が何億分の一もあろうかというような確率で誕生した僕は、今この世界を改めて眺めている。
何が美しき世界なのだろう。
排気ガス混じりの淀んだ空気と酸性雨で育ち燦々と有害な物質を振りまく太陽を浴びて育った自然の何が美しいのだろう。
草むしりをしながら嗚呼美しいなどと思っているのだろうか。
山々の空気は新鮮だと言いながら伐採を続ける彼らは果たしてその足元に咲く花を美しく思うのだろうか。
答えは全て決まりきっているのに人間はすぐに道徳だの人智だの喚く。
僕はそれを思いながらも声を上げることはしない。
声を上げるのは仲間を呼ぶためだ。
一人ではこの考えが異端扱いされてしまう。
異端な一人ぼっちは寂しいのだ。
だから僕は声を上げない。
声高々と正義や平等や偽善やどうだこうだと喚きはしない。
僕はあくまでもこの世界の歯車の予備。
その製作段階。
その時点で世間に不良品と判断されればここでまともに生きることは許されない。
僕は足元に目線を落とした。
アスファルトの隙間から覗く枯れかかったまだ未熟な花に目をやるものは一人もいない。
所詮声高に叫んだところで人間はこの程度でしかない。
弱者は一人で生きていかねばならぬのにその術を教える者もいなければ陰ながらに応援する者もいない。
強者は強者で群をなし弱者を嘲る。
弱者は弱者同士で慰め合いながら互いの不幸自慢をし上辺だけ強者のふりをしながら誰も自分のことなんてと思う。
僕がしてやるのはただ一つ。
僕はゆっくりその枯れかかった花を踏みつけて潰した。
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