狡猾な王子様
今日の私は、少しも慎重ではなかった。


子どもの頃から、周りに呆れられてしまうくらい臆病だった。


その上、引っ込み思案な性格。


それらが相俟ってなのか、いつだって石橋を割れる寸前まで叩いてから渡るようにして慎重に生きて来た。


だから、後先考えずに行動をすることなんて、今までほとんどなかったのに……。


こんな時に限って、その場の勢いだけで告白なんてしてしまった自分自身の浅はかさが心底憎い。


ガラスで傷付いた手の甲が、ピリピリと痛む。


浅はかな自分の行動に、頭がガンガンと痛む。


だけど……。


それよりももっと痛むのは、英二さんの心情を知った胸の奥。


ズキズキと痛むそこは、呼吸の仕方を忘れてしまいそうな程の深い傷を負って……。


最初に刻まれた傷の痛みを感じる猶予すら与えられず、追い討ちを掛けるように何度も何度も抉(えぐ)られていく。


生々しい痛みを全身で感じながらハンドルに額を預け、心を占める後悔に唇をギュッと噛み締めた──。

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