龍翠の戦う料理人-Asian World-

1 中華料理(見習い)始めました






神戸元町に在る本店で面接をしたので、てっきりその店で働くものだと思っていた。



面接をしたのがその店のオーナーで、中国人の門(ムォン)社長だ。



門社長が、以前体調を崩して入院した時、その病院の総婦長がとても良くしてくれて、その入院中に門社長の面倒を診ていた総婦長こそが、俺の親父の姉で俺にとっては叔母に当たる人だ。



昔から恐いイメージしかなかった叔母の紹介で入った縁故入社みたいなもんだ。



だからこそ、この恐い叔母の顔に泥を塗らない為にも、って言うか自分の為にも頑張って働いていこうと決意した矢先に門社長から



『今、大阪の支店が人手不足だから、君は明日から大阪の支店で働いて貰うから!』



俺は有無を言わさない、その場の雰囲気に負けて



「はい。」



と、答えてしまった。



『寮も完備して有るから、心配しなくても良いから。

頑張って働いておいで!』



やはり、仕方がないから、



「はい。」



と答えて、自分の荷物をまとめて阪急電車に乗った。



梅田で、御堂筋線に乗り換え、淀屋橋で下車したら、今度は京阪電車に乗って北浜で降りた。



地下道を通って、一番東の出口から地上に出たら、目の前の道路を挟んだ向かいには三越が!



そこから少し歩くと見えてきた9階建てのビル、その最上階に支店は在る。



エレベーターで9階迄上がると、直ぐに厨房に向かい、そこで働く中国人の職人さん達を紹介され、元気に挨拶をしていき、



「明日から、こちらの支店に勤務することになりました龍翠です。

宜しくお願いします。」



と、言うと、



『龍翠、お前が一番下っぱなんやから、一番電車に乗って出勤しろよな!』




それだけ言うと、全員それぞれの持ち場に戻って中断していた作業を再開しだした。



取り敢えず、もう一度一礼してから、厨房を後にして、新しい寮に向かった。



すぐ近くに寮が在るのかと思っていたが、案内された寮は、またまた京阪電車に乗って北浜駅から京都三条行きの急行に乗っても25分程掛かる寝屋川市の次の香里園と言う駅に在るのだ。



香里園で下車したら、徒歩で20分以上掛かる香里北之町と言うところに寮は在った。



寮と言ってもただの2階建てのボロアパートだ。



部屋を2部屋、会社で契約していると言うだけの、汲み取り共同トイレ付き、半軒の流し付き、風呂無しのマジのボロアパートで、6畳しかなく、二段ベッドが置かれた部屋で、鄒(ツォ)さんと言う中国人との共同生活が強いられる場所であった。



もう一部屋は、40才の独身中国人先輩が住んでいた。



鄒(ツォ)さんは在日中国人で、私の4年先輩だった。


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