「素敵な街ね…」



「そうだな…ここが、今日から俺達の住む街か」



美しく造られた街のタワーマンション。建物と周囲の花や緑のバランスは計算しつくされていて完璧に調和している。暖かい春の風が花木を揺らし、ほのかに香る良い香りに都会の真ん中にいる事を忘れてしまいそうになる。




城田直人と妻の百合子は結婚8年目の夫婦。




二人はこれから新居となるこのマンションの前に立っている。




去年亡くなった直人の父は祖父から継いだ建設会社を大きくし多大な遺産を残した。一人息子の直人が弁護士からこのマンションの事を聞いたのは葬儀の次の日だった。

孫を待ち望んでいた直人の父はまだ見ぬ孫の為に良い環境をと、たくさんの物件の中からこのマンションを選んだそうだ。




ここは、都内でも有数の高級住宅街。




父の会社を引き継いだ直人と有名私立高校で数学を教える百合子。キャリアも経済力もある二人が住むには相応しい場所ともいえるだろう。






「じゃあ、行こうか…」






夫婦のマンションはエントランスにコンシェルジュが常駐している。





「城田様、お待ちしておりました。コンシェルジェをさせて頂いております、高田と申します。こちらがお部屋の鍵になります。お荷物はもうお部屋の方に搬入が完了しております。何かご不明な点がありましたら、こちらにご連絡下さい」






高田が感じの良い笑顔で夫婦を出迎え、直人に部屋の鍵を手渡した。








「ありがとうございます。よろしくお願いします」







高田のエスコートでエントランスを進み、夫婦はエレベーターに向かった。エレベーターは3基あり高田は1番右のエレベーターの前で立ち止まると上階へ向かうボタンを押した。すぐにチンという音と共に扉が開いた。



「あの、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」





慣れない事に照れくさそうに直人が高田に軽く頭を下げた。




「かしこまりました。何かご用がございましたら、なんなりとお申し付け下さい」




高田が頭を下げてエントランスに戻っていくのを見送りながら、37階のボタンを押し、閉ボタンを押そうとしたその時…





「ごめんなさい!ちょっと待って下さいっ」







ヒールの音を響かせて一人の女性がエレベーターに向かって走って来た。






直人は慌てて開ボタンを押す。閉じかけたエレベーターが再び開き両手に紙袋を持った女性が息を切らせて乗り込んで来た。






「ごめんなさいっ!私ったらせっかちで…。いつもこんな感じで駆け込みなんです。主人にいつも怒られるんですよ、次でいいじゃないかって。」





女性の気さくな話し方に百合子は少しほっとした。




「ご主人はきっとおおらかな方なんですね」




「ええ、とっても。おおらかすぎるくらい」



嬉しそうに微笑んで百合子の言葉に答える女性の姿からは夫婦仲の良さが伺える。




女性が乗り込むと同時にエレベーター内は良い香りで満たされていく。強すぎる事もなく心地よいその香りは彼女が使っている香水が良いものだという事と、それを選ぶセンスの良さも感じさせる。彼女の着ている物も両手の紙袋も高級ブランドの物だが飾らない振る舞いと容姿の美しさからか嫌みがない。







「私、43階の南です。よろしくお願いします」







女性は笑顔で言った。







「あっ…私たちは37階に今日越して来ました城田と申します。彼女は妻の百合子です。よろしくお願いします」






「まぁ、今日越して来られたの!では、歓迎パーティーしなきゃね!このマンションってワンフロアに一世帯でしょ。特別な事でもない限りお付き合いってないんです。だから、ご近所同志の交流も兼ねて新しい方がいらっしゃったら歓迎パーティーをする事にしているの!もし、御迷惑じゃなかったら参加して頂けるかしら?」










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