「ただいま…」






仕事を終えた直人が帰って来た。







「おかえりなさい!」







百合子がキッチンから答える。








「今日はステーキにしちゃった…」






百合子が弾んだ声で言う。






基礎体温をつけ始め、今日が排卵日の百合子は直人が少しでもその気になってくれれば…と願っていた。








あれ以来、自分を抱こうとしない直人。





流産した事、不本意な状態で自分を抱いた事、それを直人が後悔しているのは分かっている。





それでも、また直人に抱かれたい。







もう一度妊娠したい。








直人とのつながりをもっと確かな物にしたい…。







百合子はそう強く願っていた。










「直人、先にお風呂入って!」








いつもと違う百合子の態度に直人は戸惑っていた。








「分かった…」








直人は百合子に言われ浴室に向かった。








洗面台の上にはそれまで棚の中に隠すようにしまわれていた手帳が置かれていた。








直人に見てと言わんばかりに置いてあるそれを手に取りページをめくる。









今日の日付には排卵日の文字が赤で書かれていた。









百合子はわざと直人の目に触れるように手帳を置いていた。










百合子の気持ちが直人に重くのしかかる。








直人は大きく溜め息をつき、浴室で熱いシャワーを出した。













シャワーを浴びながら考えるのは、百合子の事ではなく…








哀しみを帯びた瞳で直人を見つめる友美の事。










「次のパーティーではあなたが私の鍵を引いて下さい…」







友美は直人の耳元でそう囁いた。







友美は自分に抱かれる事を望んでいるんだろうか…。









それよりも、直人自身が友美を抱く事を望み始めていた。











こんな状態で百合子を抱く事など出来ない。










直人は手帳を棚にしまい、浴室を出た。







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